【2021年1月号】お寺に必要な「IT」を考える【ぶつぶつ放談】

登場者

井上 広法(いのうえ・こうぼう)

1979年宇都宮市生まれ。栃木県・宇都宮・光琳寺住職。佛教大学で浄土学を専攻したのち、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。テレビ番組「ぶっちゃけ寺」や人生相談サイトhasunoha の立ち上げに関わり、現代における新しい仏教の入り口作りを目指している。

小路 竜嗣(こうじ・りゅうし)

1986年、兵庫県伊丹市生まれ。長野・松本組善立寺副住職。信州大学大学院工学系研究科卒業後、リコー入社。結婚を機に退職し、妻の実家である善立寺に入寺。寺院のIT導入支援や企業への提案などを行っている。

司会/服部 祐淳(はっとり・ゆうじゅん)

1983年、長野市生まれ。長野・青木島・安養寺副住職。2020年3月まで浄土宗出版に勤務。

書類電子化がITの第一歩

司会 では、さっそくですが、お寺の実務に使えるIT製品を教えていただけますでしょうか。

小路竜嗣師(以下小路) あえて商品名を出しますが、スキャナーの「Scan Snap」(スキャン スナップ/富士通)です。

井上 これ、私も使っています!

司会 お二人とも使っているのですか。どんな製品ですか。

小路 前回申し上げましたが、お寺って紙が多いですよね。そこで私は会議終了後に大量の資料をScan Snap に読み込ませることがルーティンになっています。 スキャナーはたくさんの製品が出回っていますが、Scan Snap はA4サイズの両面を1分間に30枚くらい読み取ってくれます。これはお寺のIT化を進める一歩としては非常に便利だと思います。

IT導入する際にいわゆる「住職の障壁」があると思うのですが、これは非常に低いと思います。溜まりに溜まった書類をデータ化し、「あれ、あの資料どこ行った?」と聞かれた時に、スマホでぱっと検索すれば一目瞭然です。「ほおぉ~、便利だな」となり、だんだんとIT化に前向きになってくれます。

司会 住職という高い壁を越えられるかもしれませんね。

小路 データはドロップボックスなどのクラウド上のサーバーに入れておけば、スマホやタブレットなどからいつでもどこでもアクセスできて便利さが格段に上がります。金庫機能もありますので、重要な資料も大切に保管できます。むやみに流出しないよう、また流出しても暗号化で誰も解けないようになっています。
機種の中には非接触でスキャンするタイプもありますので、A3の見開きまでスキャン可能です。これは過去帳のバックアップですとか、貴重な古文書などの資料もデータ化し保管できますし、データをPhotoshop(フォトショップ)などで修正して保管しておけば、修繕費もかからず後世に残すことができます。紙の状態で修繕すれば何百万円と掛かることもありますしね。

井上 確かに書類が山になりやすい。

クラウド型の防犯カメラや会計サービスも

小路 二つ目は監視カメラの「Safie」(セーフィー)です。今このカメラがコロナ患者の病室で非常に多く使われていて、心電図のモニターや顔を映るように設置し、看護師はタブレットでそれを監視する使い方をされています。


この商品の優れた点は無線LAN(ラン)さえ引いておけば、コンセント一つで設置できるところです。
回線工事が不要なことは貴重な堂宇を維持するお寺にとってはメリットだと思います。 無線LANが届かない場所で設置したいときは、ドコモ回線付きのカメラもあるので、電源さえ確保できれば設置できます。

井上 なるほど、便利そうですね。

小路 夜中に境内で物音がしたけど見に行くのが怖い……なんていう時は布団の中でスマホかタブレットで確認ができます。実際確認に行って不審者に出くわしたら、シャレにならないですからね。山の上の小さなお堂でお賽銭がよく盗まれるといった無住寺院の防犯対策にも実際使われています。また、動くものに対して察知して通知してくれる機能もありますので、日ごろの来客などにも使うこともできます。 映像の保存はクラウドでサーバーも不要。
 保管期間は契約次第ですが、私が使っているプランは一週間保存で月額1200円です。

司会 意外と安いですね。

小路 本体自体は一台2万円前後なので、お試しで使ってみて、徐々に「住職の障壁」をクリアするのもありだと思います。コンセントを抜き差しすれば簡単に設置場所を移せるので、日によって変えられるのもメリットのひとつです。 このほか、クラウド型会計ソフト「会計freee」(フリー)なんかもおすすめです。
 レシートをスマホで撮影するだけで読み取ってくれますし、クレジット払いなら交通費、雑費などに判別してくれます。ただ、宗教法人向けの収支決算には対応していないので、こちらも企業と掛け合っているところです。

お寺の事務効率化で 仏教を存分に伝えられるお寺に

司会 技術が飛躍的に進歩する中で、何を目的とし何を導入するかをしっかり考えないといけませんね。

小路 はい、特に地方ではお坊さんも減っているし、お寺の収入だけでは経済的に苦しい寺院が現実的に増えていると思います。
 一人のお坊さんが二つ三つと仕事を兼務し、あっちの草刈りに行って、こっちの雪下ろしに行ってとなれば一日が終わってしまい、気づいたら「いつお経読んだ?」「いつ勉強した?」「お檀家さんと話ができた?」という状態になってしまう。
在家からお寺に入った私からすると、お坊さんにはもっと活躍してもらいたいのです。

司会 なるほど、お坊さんの中にいると、そうした意識が薄れてしまう。

小路 なんとか頑張っているけど経営がうまくいかないという方を多く目にしたので、その事務の部分だけでも圧縮して法務、お檀家さんと接する時間を増やしてもらいたいというのが、私の「お寺のIT化」の原点です。

井上 よくわかります。

小路 お寺は家族だけで成り立っていますから、子どもが熱を出したり、奥さんが倒れてしまってはもうそれで回らなくなってしまう。
家族への負担が大きく、その上収支も良くない状態では次世代に渡しにくいと思います。苦労するのは私たちの世代で終わりにして、次の世代にはお檀家さんとゆっくり話をできる時間を持たせてあげたい。「仏教を存分に伝えられるお寺」が僕の目指すところです。

コロナで少し遠かった未来のものが身近に

司会 とても大事なことですね。さて、「ウィズコロナ」の時代に入りましたが、ITは大きなカギになるかと思いますがいかがでしょう。

井上 悲観論ばかりではなく、むしろ勝機もあるのではないかと思っています。というのも、このコロナで少し遠かった未来のものが身近になったと感じているからです。この取材もZOOM(ズーム)取材ですが、コロナ前だったら〝会わないのは失礼にあたる〟という感覚だったのではないでしょうか。お坊さんは仏教をインフォメーションするのが命題なのですから、インフォメーション・テクノロジー(IT)に関しては果敢にチャレンジしていっていいと思いますね。

小路 少しだけタイムマシーンに乗った感じもしますよね。ZOOMに関しては少し心配なところもあって、急激に浸透しましたが、「なんでもZOOMでやればOK」という風潮はどうなのかなと感じています。モノによっては向かない部分もあるんですよ。基本的に会議システムなので様々な会議には向いているのですが、「ご一緒に十遍お念仏をお唱えください」ってなった時に、遅延があるので合わないのですよね。
 今度詠唱の講習会がズームであるのですが、詠唱師の方って年齢は高いし、講員の方も女性が多い。はたしてズームを使いこなせる方がどれだけいるのか、サポートしてくれる方はいるのか。各自お寺で頑張ってやってくださいといった状況なので、もしコロナが収まった後に定着するかと言ったら「使いにくい」という印象が優先して、またタイムマシーンに乗って帰っていく気がするのです。それは少しもったいない。宗からの助成金があるわけでもないですし、Wi-Fi(ワイファイ)環境も整えられないお寺さんもいる中で、もう少しサポートを強化しないといけないとは思います。

司会 御住職にはお年を召した方も多いので、こうした環境を整えるのも難しいとは思います。

小路 そうですね。今までまったくITツールを手に取らなかった人が焦って始めることは少し危うい部分もあります。いきなりのYouTube(ユーチューブ)配信などはあまりお勧めできません。ノウハウがない中でまったく知らない世界でまったく知らない人に何かを伝えるのはやはり障壁として高い。カメラもマイクも適切なものを用意できなければユーザーは見てくれませんし、編集は誰がするのかとか、コストもべらぼうに高くなってしまいます。
何か始めたいなら、地に足を付けてまずは寺報など紙媒体から作って配るでもいいと思うのです。
 ITは結局インフォメーション(お知らせ)のテクノロジー(技術)ですので、何を伝えたいかを定めてしかるべき方法で発信を始めればいいのです。そこにテクノロジーがどうフィットしていくかですから。前号で申しましたがIT化は「一発逆転満塁ホームラン」ではないので、檀家さんに認知されるまでは時間がかかります。はじめは紙媒体にQRコードを付けてWeb に誘導するといった地道な作業も必要です。 まずは自分の持っている手駒の中から一歩を拡張していく。このほうが現実的に広がりや継続性があるのではないかと思います。

井上 まさにその通りで、このコロナショックの中でお寺、または住職、副住職の在り方が明確に問われる時代に入ったのだと思います。どんなにテクノロジーが進化しても伝えるべきメッセージがなければ何の意味もないわけです。
ウィズコロナにおいて思うのはオンラインでできることと、オンラインでできないことのきちんとした住み分けが必要だなと。
 我々は対面でのご供養、法話などの体験価値をいかに深めていくかをまず念頭に考えなくてはならないと思います。それがあって初めて遠くの方に届けられるITが生きてくるので、伝えるべき内容・目的がないのにIT化を始めるのはほぼ意味のないことです。これまで行ってきた法要・法話などの伝統的なものを根本から変える必要は全くありません。ただそこに流れる価値・意味を伝える手段・表現はよくよく考える時代に入ったのだと思います。そこにITは大きな役割を果たすと思います。

司会 これからのお寺を支えていく副住職にとっては大変貴重な話を伺えました。ありがとうございました。

掲載号

2021-01

この記事を書いた人

編集部

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